いずれ滅ぶ身に、君はいらない。
 そう笑った男は、彼女をそこに置き去りにした。
 小春日和のような、凍える空気の中に光の柔らかさをのこしたまま。



00.







 トーキガリーは化け物だ。
 黒山羊の顔、黒い外套、背は高くて、目は赤い。
 ぼうと立ち尽くす姿は、まさに、化け物。


 トーキガリーは探している。ゲートを求めて、この世界のどこかに現れては、扉を壊し、それが外れだったことにがっかりして、去っていく。
 神出鬼没だ。


 そうして、どこか遠くを見つめては、焦るような、表情をする。
 けれど、やがて諦めて、いつものような、無表情へと変わってしまう。


 トーキガリーはいつも独りだ。
 他に人がいないから。
 この空間にアクセス出来ているのは彼だけで、運良く“事故”を免れたのも彼だけで、そのまま此処に置いてきぼりにされたのも彼だけだった。
 誰も彼を見つけられない。


 ゲートは既に閉ざされているから。





「なに、お前、また来たの」

 言って、呆れたように、彼女を腕に抱き上げる。

「私だって、待ってるんだよ。連れが来ないんだもの」

 不服そうな顔で、彼女は言う。

 よしよし、と頭を撫でられた。
 子供扱い。


「律儀なヤツー、俺は早く帰りたくてしょうがないのに」
「・・・だから、こっちとあんたの事情は、少し違うんだって」

 彼女は一方通行だ。
 彼は一時停止だ。

 時間だけが過ぎていって、けれどその時間も、彼女にはあまり、関係がない。

「トーキガリー、あんたはいつまで此処にいるの」
「わからん。あっちこっち壊して出口探してるけど、何か当たらないんだよなぁ」

 プログラムのメンテナンス、まだ終わってないのかなぁ。もし終わってたとしても帰れない状態の俺ってどうよ。

 そうして、頭を抱えている。

 変な奴。



 トーキガリー、あんたは元の世界へ帰りたいの。

 問うと、当然、と彼は笑う。


 口うるさい姉貴が待ってるからさ、帰らないと恐いんだ。


 ちっとも恐がっているようには見えない顔を見て、ふぅん、と頷く。


 山羊の頭をした彼は、本当は、ヨウという名だ。



 そうでしょ? 瑤。