いずれ滅ぶ身に、君はいらない。
そう笑った男は、彼女をそこに置き去りにした。
小春日和のような、凍える空気の中に光の柔らかさをのこしたまま。
トーキガリーは化け物だ。
黒山羊の顔、黒い外套、背は高くて、目は赤い。
ぼうと立ち尽くす姿は、まさに、化け物。
トーキガリーは探している。ゲートを求めて、この世界のどこかに現れては、扉を壊し、それが外れだったことにがっかりして、去っていく。
神出鬼没だ。
そうして、どこか遠くを見つめては、焦るような、表情をする。
けれど、やがて諦めて、いつものような、無表情へと変わってしまう。
トーキガリーはいつも独りだ。
他に人がいないから。
この空間にアクセス出来ているのは彼だけで、運良く“事故”を免れたのも彼だけで、そのまま此処に置いてきぼりにされたのも彼だけだった。
誰も彼を見つけられない。
ゲートは既に閉ざされているから。
「なに、お前、また来たの」
言って、呆れたように、彼女を腕に抱き上げる。
「私だって、待ってるんだよ。連れが来ないんだもの」
不服そうな顔で、彼女は言う。
よしよし、と頭を撫でられた。
子供扱い。
「律儀なヤツー、俺は早く帰りたくてしょうがないのに」
「・・・だから、こっちとあんたの事情は、少し違うんだって」
彼女は一方通行だ。
彼は一時停止だ。
時間だけが過ぎていって、けれどその時間も、彼女にはあまり、関係がない。
「トーキガリー、あんたはいつまで此処にいるの」
「わからん。あっちこっち壊して出口探してるけど、何か当たらないんだよなぁ」
プログラムのメンテナンス、まだ終わってないのかなぁ。もし終わってたとしても帰れない状態の俺ってどうよ。
そうして、頭を抱えている。
変な奴。
トーキガリー、あんたは元の世界へ帰りたいの。
問うと、当然、と彼は笑う。
口うるさい姉貴が待ってるからさ、帰らないと恐いんだ。
ちっとも恐がっているようには見えない顔を見て、ふぅん、と頷く。
山羊の頭をした彼は、本当は、ヨウという名だ。
そうでしょ? 瑤。